

彼の者は
いにしえから来たる
時間、空間、物質の理など
知らぬ顔で
ひょうひょうと
今日もどこかで旅をする
その名は "むすび"
遥か昔にカタチを失くした神々の
それは小さな記憶の糸・・・
それは大きな回復の兆し・・・

かつて栄華を極めた街も人も、いつしか森に呑まれていった。
錆びた鉄骨、色あせた壁、くずれかけた階段・・・。
人々が去った世界は静かだった。
鳥の声や小動物の気配もしない、獣の息づかいもない。
ただひそやかに、ただゆっくりと、森はその範囲を広げ、今もなお廃墟を呑み込み続けている。
"むすび"はひょうひょうと進む。
森の中へ、廃墟の奥へ・・・。
いつからか風呂敷を首に巻いた姿で、
中から”希望の種”をばらまきながら、
鬱蒼と生い茂る葉をかきわけ、木の根を飛び越え、樹々の間をぬけて・・・。
階段をのぼれば別の空間へ―――。
休むことなく歩き続けると、そこには”無限の記憶”の景色が広がっている。


そこは未来か過去か、はたまた時間の行き止まりか―――。
希望の種は”救いの種”だ。
消えかけた神々の声が聞こえる。
はるか遠くから、いや足元から・・・?
「おおーぃ・・・おおーぃ・・・」
"むすび"は声の方へ振り向いて、また歩き出す。
時間をぐるぐる回すように。
止まってはならない振り子のように。


希望の種が届くその瞬間まで。

一匹の猫がふろしきを背負って、森のなかを旅してゆく―――そんな絵が浮かんだのは、つい2年前のことです。そもそもなぜ猫なのか。そんな疑問は自分のなかにもずっとありました。昔から猫に魅せられているけれど、それは愛玩動物としてではなく、一体の個人として・・・まるでもう一人の自分を見るように、猫はずっと不思議な生命体として近くに存在していました。
"むすび猫"は「SUMI-NEKO」の名で誕生し、絵で語る物語として、加古川駅前の小さなギャラリーで発信をスタートさせました。しかし、"むすび猫"が主人公としてどこへ旅たちたいのか、何が目的なのか、その使命は何なのか・・・考えているうちに時間は経ち、その答えはいまだに明確になっていません。
けれども、せっかく生まれた"むすび猫"を、このまま風化させてしまいたくないという思いがあり、少しずつでもいいから、作者なりの"むすび猫"を描こうと決めました。
これから"むすび猫"が、どんな場所を旅し、どんな成長をするのか、共に見守ってくれる仲間が増えることを願って―――。